地域交流の場として❗
■子育てママや高齢者らも参加
「めっちゃ外暑かったー!」「腹ぺこー! 今日のご飯は何?」――。
8月下旬の夕方、東京都大田区にある子ども食堂「気まぐれ八百屋 だんだん」に、子どもから大人まで多くの人たちが集まってきた。
この日は、牛すき煮や、ナスとネギの煮浸し、オクラのおかか和えなどがずらりと並んだ。料金は大人500円、子どもは1円でもゲームのコインでも「ワンコイン」で、お金を気にせず食事をすることができる。誰かが来るたびに店主の近藤博子さんが「おかえり。元気そうね」と優しく声を掛けながら迎え入れる。店内はすぐに満席になった。
普段は八百屋として営業している「だんだん」は2012年から、毎週木曜日の夕方に子ども食堂として営業を始めた。子ども食堂の“元祖”として知られる。今では、毎回40人以上が訪れる“地域の居場所”となっており、小学生や中高生だけでなく、小さい子どもを連れた親子や高齢者の姿もある。時には、食事を終えた子どもに大人が絵本を読み聞かせたり、大人同士の料理の情報交換や、育児に悩む子育てママの人生相談の場になることもあるという。毎週のように通う30歳代の女性は、「家に帰って食べても子どもと2人きり。ここでは楽しく食べられる」とほほ笑んだ。
小さい頃から通っているという眞鍋拓大くん(16)は、「いろいろな人が集まるから楽しい」と笑顔を見せた。近藤さんは「子ども食堂は『子ども専用』ではない。最初は一人で黙々と食事をしていたが、周囲との会話を通じて笑顔が出るようになった人もいる。多くの人の居場所になっている」と語った。
■専門部署が開設支援/埼玉県
子ども食堂を地域の人々の交流の場として、開設を後押ししている自治体もある。
埼玉県は18年6月、「こども応援ネットワーク埼玉」を設立した。子ども食堂に関する情報提供のほか、開設希望者と、空き家の活用を考える個人や食材を提供したい企業などをつなげるマッチングを進めてきた。現在、ネットワークの登録者数は約300団体・個人に達し、今後も増える見込みだという。
こうした取り組みが実を結び、県内の子ども食堂は1年間で164カ所から230カ所に増えた。また今年6月からは、子ども食堂の開設を希望する人に運営経験者や専門家を派遣するアドバイザー派遣事業も実施している。県担当者は「共働きの増加や近所付き合いの希薄化などが進む中、子ども食堂は地域のつながりをつくる上で重要だ」と指摘する。
県は今後、小学校区に一つとなる合計800カ所の開設に向けて支援を進めていく方針だ。
■全国に3718カ所/6小学校に1施設の割合、訪れた人数延べ160万人
今年6月にNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」が行った調査によると、子ども食堂は、現在、全国に3718カ所にまで広がっている。
昨年の前回調査と比べても1・6倍に増加しており、6小学校に1カ所設置されている計算になる。訪れた人数は、推計で延べ約160万人にも上る。
ここまで急速に増えた理由について、「むすびえ」の理事長で東京大学の湯浅誠特任教授は、「貧困対策だけでなく、地域の交流拠点という認識が広がっているためだ」と指摘する。また「子どもの声を聞く機会が減った」「地域で知り合う機会が減った」と感じている人が増えているのも背景にあるという。
今では、多くの子ども食堂は子どもから高齢者まで幅広い世代に利用され、「地域食堂」や「みんなの食堂」といった名称の食堂も目立つ。中には、365日3食欠かさず食事を提供していたり、利用者の9割が高齢者という子ども食堂もある。さらに食事提供だけでなく、学習支援や就労体験など多様な役割も担うことから、地域住民から人気を集めている。