こども文教委員会行政視察
平成29年8月28日(月)から30日(水)にかけて、大田区議会こども文教委員会は行政視察を行い、私も委員として参加しました。視察項目と内容は以下の通りです。
●大阪府大阪市 「児童虐待の発生予防に向けた相談体制について」
大阪市の児童相談所は、昭和31年に開設され、平成28年に2カ所目の南部こども相談センターが開設されました。現在3カ所目を大阪市北部に開設するべく準備中とのことです。
一時保護所の定員は、大阪市こども相談センターが70名、南部こども相談センターが30名です。
新規の児童相談受付件数は増加する一方であり、平成28年は1万5千件超、前年比9%増、内容は養護相談が56%でした。
児童虐待相談件数も増加の一途で平成28年度は6千件超。児童虐待の種別の割合は、心理的虐待が58%、身体的虐待が25%、ネグレストが16%性的虐待が1%。5年前は、身体的が46%、ネグレストが30%、心理的が20%で心理的虐待が大幅に増えています。主な虐待者の割合は実母が半数を占めており、離婚や育児ストレスによるものと思われます。
虐待相談の受理経路で一番多いのが警察で全体の55%。面前暴力を現認したうえでの相談といいいます。
大阪市の児童相談所は、児童虐待事件が繰り返されるたびに体制の強化が図られ、条例も制定されました。
虐待が生ずる背景の一つである望まない妊娠、若年妊娠への対策として電話やメールの相談事業「にんしんSOS」を府の事業として行っています。大阪府外居住者の相談も受け付けているとのことですが、相談者の20%が中高生であることに衝撃を受けました。大田区においても相談窓口や啓発活動の強化を図るべきです。
職員は、管理職も休日の当番を務め、一般職も負担がかなり大きい。これは、職員が多ければ解決できることではないということです。
大阪市の担当者が「相談所のハコモノを造るよりも人材の育成が鍵を握る」と語っていたのが印象的で、大田区も児童相談所を開設するには、かなり腰を据えていかなければならないと改めて痛感しました。
●社会福祉法人みおつくし福祉会 「社会的養護施設について」
社会福祉法人みおつくし福祉会は、昭和21年に大阪市民援護会が結成されたことが淵源で、現在、大阪府内で生活保護施設、児童養護施設、児童心理治療施設、母子生活支援施設、保育所など31施設を運営している社会福祉法人です。もとは大阪市の外郭団体でしたが、橋下市長の時代に外郭団体から外れ、現在は、一般の社会福祉法人として運営されています。
今回は、法人の責任者だけでなく、社会的養護施設の各施設長も同席され、施設を運営していく際や行政との連携をしていく上での留意事項をお伺いしました。
大阪市の児童養護施設などが児童福祉施設連盟を組織し、情報交換や各種研修によって職員のスキルアップを図っているとのことでした。
要保護児童の受け皿が、これまでの施設養育から家庭養育へというのが大きな流れであると伺いましたが、里親への教育も大変重要であると感じました。
施設から地域の学校に通う子どももいることから、地域・学校と連携して子どもを育んでいくために、施設長が子ども会、自治会、学校等の役員等も引き受けるなど、地域に溶け込む努力をされていることに感銘を受けました。
●大阪府大阪市 「待機児解消に向けた大阪市の取り組みについて」
大阪市にとっても待機児童解消は喫緊の課題です。平成29年4月の待機児童数は325人と昨年より52人増加しました。
大阪市は平成28年7月に市長をリーダーとする待機児童解消特別チームを立ち上げ、待機児童を解消するためにこれまでにない方策(優先6課題=市有財産活用、保育送迎バス、3歳児受入、大規模マンション保育所設置条例化、賃貸補助、事業者と物件のマッチング)を検討。さまざまな事業を展開しています。
待機児解消の目標を、国が定める待機児基準としていては本当の解消に向かわないとして、他に利用可能な保育所があるにもかかわらず特定の保育所を希望する場合や求職活動休止中なども含めた「利用保留児童数」を基準にして、平成29年度予算における総事業費を前年度の3倍、定員6,053人分を確保するとした大胆な整備計画を策定しました。
保育士確保の事業として、保育士の子どもの保育所優先入所を行っています。大阪市の特徴は、ポイント制外で優先的に入所させるとともに、決定通知も一般の2月より早く12月としているところです。ポイントを加点し結果通知も2月とする一般と同じ方式では、入所することが確定しているわけではなく結果の通知も遅いため、勤務を予定している保育所に対し勤務を確約できず保育士の不安が大きいといえます。そうしたことが防げるこの制度は、予算措置を伴うものではないため、制度を変更すれば済みます。市民からの反発が気がかりであったそうですが、これまでのところ反発はないということです。
保育送迎バス事業は、同一の保育事業所が待機児童解消エリアに送迎ステーションを設け、3~5歳児をステーションで預かり、入所枠に余裕のある近接区の保育所に送迎するものです。保護者と連携をとるためと責任を持たせるために送迎も保育所も同一の法人が運営することを条件としています。ステーションと保育所の間の距離も、送迎に15~20分ほどかかる距離までとしています。これは、あまり遠方にすると、子どもが熱が出た場合など保護者が直接、保育所に迎えに行くのに支障が出てしまうためです。
保育送迎バス事業は、大田区議会公明党も提案しているため、ぜひ実現させたい事業です。
●京都府京都市 京都まなびの街生き方探求館 「教育委員会が主導するキャリア教育の拠点とライフプランニング学習について」
「京都まなびの街生き方探求館」は、産学公市民が連携し「生き方探求(キャリア)教育」に特化した先進的な体験型の学習施設で、建物は、廃校となった中学校舎を活用しています。
年間2万6千人の小中学生が、職業、生活設計、ものづくりなどの様々な体験学習を受けています。
小学5年生を中心に4~6年生を対象とした「スチューデントシティ」は、区役所、銀行、コンビニ、新聞社など13ブースで構成される街の中で社員(職員)と消費者双方を本物に近い形で体験し、経済の仕組み、働くことについて学習します。
また、「ファイナンスパーク」は中学1~2年生を対象とし、まず、年収、社会保険料などから月の手取り額を算出し、不動産、電力、水道、自動車など17ブースで構成される街で、生活に必要な水道光熱費、住宅費、商品やサービスの契約・購入を体験し、生活設計、お金のやりくりなどを学習します。
一方、「京都モノづくりの殿堂・工房学習」では、京都を代表する企業の創業者のものづくりにかける情熱を学び、電子回路などのモノづくり体験ができます。
この施設の運営は、産学公市民で構成される2つの委員会が企画・運営を行い、多くのボランティアが支えています。また、店舗や役所などの作りがかなりリアルで、現実に近い形で学習を進められるのは、企業の協力・寄付によるところが大きいといえます。
資本主義経済の世の中で生きていく以上、キャリア、生活設計、お金のやりくりを学ぶことは、児童・生徒の今後の人生を見据えていくうえで重要です。施設を訪問し、私自身も大変、刺激を受けました。
●京都府京都市 市立御池中学校 「PFI方式で建設された学校複合施設について」
政令市で初めてPFI方式を採用して建設された御池中学校。なぜ、学校複合化が必要だったのか、PFI方式を採用したのか、また、PFI方式の課題について伺いました。
ドーナツ化現象と少子化により中学校が小規模化し、効果的な教育に支障が出始めたため、市民の間で話し合いが行われ、統廃合をするべきであると市民の側から要望が出たそうです。市民から統合の要望が出ることに驚きましたが、京都には明治初頭に市民の手で小学校が60数校建設された経緯もあり市民の教育への思い入れは強いからだそうです。
学校統合を検討する際、保育、高齢者、まちを活性化・賑わいを創出したいなどの地域のニーズに応えるために保育所、地域包括センターなどの高齢者施設、商業施設を置き込み複合化を図ることになりました。京都中心部はまとまった土地が少なく、土地を有効活用するために複合化が必要でした。
PFI方式を採用することにより、公共団体が思いつかない民間の発想で施設を造ることができること、コストが抑えられることがメリットとしてあげられます。実際、御池中学校を通常の方式では90億円かかると見込まれていたものが、PFI方式では60数億円と3分の2に大幅に抑えられました。
学校周辺に多かった染物屋が廃業した後の敷地にマンションが建設されファミリー世帯が流入。今回の事業で人気が出て生徒数が膨れ上がり、中学校の小規模化を防ぐとの当初の目的を大きく達成できることになりました。
統合しても寄せ集めでバラバラであった学校が、「御池ファミリー」というフレーズで学校内、地域、全ての関係者の一体感を作り出すことに成功しました。また、学校の校庭を高齢者施設、保育施設から見える配置とすることにより親近感が生まれ、世代間交流を自然に行えるように工夫していることにも感心しました。
PFIや複合化の課題は、まず地域から理解を得られるかです。次に、PFI事業会社のもとに学校も制約を受けることです。行事や授業で使用する施設を変更する場合、管理会社に書面で届け出なければならないなど、学校がフレキシブルに使えない事案も発生するとのことでした。
御池中学校に続いてPFI方式による学校が建設されていないことに、地域の理解を得る難しさがあるのではと感じました。