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11月25日の公明新聞掲載記事
消費税率引き上げと今後の日本経済
大和総研常務取締役・チーフエコノミスト 熊谷亮丸氏に聞く  10月1日から始まった消費税率10%への引き上げの滑り出しや今後の日本経済などについて、大和総研の常務取締役・チーフエコノミストで、さまざまなニュース番組のコメンテーターなども務める熊谷亮丸氏に聞いた。
■(「10%」の滑り出し)細かな対策で影響は限定的/軽減税率、痛税感緩和に一定の成果
 ――「消費税率10%」の滑り出しをどう見ますか。
 今回の税率引き上げで国民負担は2兆円増えるのに対し、2・3兆円の経済対策が打たれている。軽減税率の導入をはじめ、プレミアム付き商品券や年金生活者支援給付金、キャッシュレス決済時のポイント還元などきめ細かな対策が打たれていることで、駆け込み需要と反動減は限定的となっており、滑り出しは順調に進んでいる。消費税の景気への悪影響は極端に懸念するほどではないというのが全体感だ。
 通常、税率引き上げ後は物価が上がるはずだが、今回はほとんど上がっていない。さまざまな対策で、家計に対する打撃が抑えられたことの証左と言える。
 ――軽減税率について。
 軽減税率に対して、経済学の“人間は合理的だ”という前提に立った批判もあるが、その前提自体が現実と違うところがある。税金を払うときの痛税感は、払った税金が後から何らかの形で還元されたとしても、なかなか消えないのが現実で、飲食料品などの税率を低くする軽減税率は、痛税感の緩和という点で一定の成果を上げている。
 また、将来、仮に税率を上げることがあっても、飲食料品などの税率を抑えられる大きなインフラとしての基盤ができた点でも、評価できる。
■(景気をどう見るか)国内に前向きな材料/後退の瀬戸際“低空飛行”の成長続ける
 ――景気の現状は。
 今回、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要が少なかった要因として、万全の対策が実行されたことがある一方で、景気自体が強くない面もある。消費税とは関係なく、景気はもともと厳しくなっており、下支えに万全を期すため、経済対策は必要だ。
 世界経済は下振れリスクを抱えている。世界的に製造業の在庫が積み上がり、設備投資もピークを過ぎており、今後は徐々に伸び悩むだろう。自動車保有台数は、米中両国で飽和状態まで来ている。
 また、米トランプ政権の迷走や中国経済の想定以上の減速、英国のEU離脱の悪影響といったテールリスク(確率的には極めて低いが発生すると被害が甚大なリスク)もある。
 とはいえ、日本の景気は腰折れする状況ではないと見ている。海外経済の減速懸念があるが、政策対応の余地は大きい。米国は、いざとなれば金融緩和がまだ可能だ。トランプ政権は、公約で実現していないインフラ投資への取り組みを加速させる可能性が高い。中国は政策的な“カンフル剤”で景気を支えるだろう。
 国内では、所得・雇用環境の改善が続き、人手不足の状態なので、企業のリストラが深刻化する可能性は低い。消費税率引き上げ対策も効いている。設備投資も、製造業は厳しいが、非製造業は第5世代移動通信システム「5G」関連投資や人手不足が続く小売業での合理化・省力化投資などで底堅い。改元に伴う消費活性化も期待できよう。また、世界的なITのサイクル(電子部品などIT関連需要の波)には底入れの兆しが生じている。
 日本経済は景気後退の瀬戸際に立つものの、先に挙げた国内の前向きな材料に支えられ、成長率は年率0・5%以下、本来の実力である潜在成長率(1%弱)には届かない低空飛行のギリギリの成長を続けるというのがメインシナリオだ。
■(今後の課題は)「SDGs大国」めざし改革を/40歳代、子育て世帯支えよ
 ――政府・与党で経済対策を検討しています。重要になる点は。
 キーワードが五つある【表参照】。一つは「社会の安定」で、“分厚い中間層”の回復に向けた就職氷河期世代の支援などが必要だ。特に、就職氷河期世代に当たる40歳代では、子育て世帯で所得の伸びが鈍い。消費税率引き上げに伴う対策や社会保障の充実では、40歳代に多い「小中学生がいる中低所得者世帯」の支援が手薄であり、そこを支える政策が大事だ。
 二つ目は「個人の自立」「活力ある社会」だ。規制緩和など成長戦略の加速や、労働市場の流動性向上や中小企業の合併・買収(M&A)促進などによる労働生産性向上が不可欠だ。第5世代移動通信システム「5G」、自動運転車、スマートシティ、ヘルスケア、ロボット、人工知能(AI)など中長期的に日本が強みを発揮できる可能性がある分野への集中投資も必要だ。
 ――そのほかには。
 残り三つのうち、「持続可能性」では、社会保障制度改革などを通じた将来不安の解消が重要だ。国連の持続可能な開発目標(SDGs)は、伝統的に調和や平等な社会を志向する日本の文化と非常に親和的であり、「SDGs大国」になると宣言すべきだ。
 企業は近年、世界的に株主利益重視の傾向が強かったが、今後はAIの発達で単純労働が機械化されて“人にしかできないこと”が重視され、労働者が企業の付加価値の源泉になっていく。日本は、SDGsに親和的な文化を持ち、人を大事にするという持ち味を伸ばせば、資本主義のフロントランナーに再び躍り出る可能性がある。そのために、教育や社会などの改革が求められる。
■公明、社会の分断防ぐ役割大きい
 ――公明党に対しては。
 自民党だけだと極端な方向に議論が進む懸念もあるが、公明党は総じてバランスのとれた政策を主張しており、政権内でバランサーとしての役割を果たしている。世界的に強まる格差拡大の傾向への歯止め役を今後も果たしてほしい。諸外国のような社会の分断を防ぐために、公明党の役割は大きい。
■(世論調査)「家計変わらず」多数
 消費税率引き上げによる家計への影響が限定的な現状は、マスコミ各社の世論調査結果でも浮き彫りになっている。8日から10日にNHKが実施した調査では、税率引き上げで家計が「厳しくなった」が29%にとどまる一方で、「変わっていない」が62%に上った。
 10月25日から27日に実施の日本経済新聞社の調査では、税率引き上げ後に家計支出を減らしたかどうかの問いに、76%が「変わらない」と回答。「減らした」は21%だった。同18日から20日の読売新聞の調査でも、税率引き上げ以前よりも家計支出を「減らしていない」が70%で、「減らした」は24%だった。
 くまがい・みつまる 1966年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。ハーバード大学経営大学院AMP(上級マネジメントプログラム)修了。  

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