重要文化財の景観の保護を!
平成18年度決算特別委員会で飛鳥山にある渋沢栄一ゆかりの晩香廬と青淵文庫に近接して建設を予定している建物について、文化財保護の観点から質問をしました。
この質問にご意見がございましたらお寄せください。
渋沢史料館分室の新築についての質問
(1) 北区に重要文化財があると聞いていますが、どのような建物がいつ頃重要文
化財に指定されたのでしょうか?
(2) 9月に入って、渋沢庭園の入口すぐ脇の既存建物(27坪だということです)の周囲の植栽を伐採し、仮囲いができ、内部の植栽が伐採され、今週、ほとんど既存建物の上屋は撤去されたようであります。現場を拝見したところ、仮設といえども仮囲いは明らかに10m以内のところに設置されており、渋沢栄一の銅像にほとんど接するような位置関係にあります。仮囲いの中に収まる新築予定の建物は、晩香廬にほど近く10mぎりぎりの距離にあるように見えます。
これは、何の建物なのか、ご質問します。
(3) 文化財保護法には規定されていませんが、文化庁では、文化財周辺の環境保護の観点から、文化財に影響を及ぼす行為として、当該文化財から10m以内のところに、新たに建設をしたり、掘鑿(くっさく)工事などをする場合は、文化庁の許可が必要であるという内規があると聞きます。
このように、文化庁の内規ギリギリの10mという至近距離に新築施設を設置することは、いわば違法すれすれの行為であり、世界遺産の周辺環境が問題となり、世界遺産委員会から厳しい勧告が出ていることが話題になっている昨今、大変、重要な問題をはらんでいると考えます。
今年6月末から7月にかけて、ニュージーランドのクライストチャーチで、第31回世界遺産委員会が開かれたのですが、ここでは、世界文化遺産のバッファゾーンに関する興味深い報告がなされました。
世界遺産の保全状況の審査について、世界遺産委員会や世界遺産センターなどの諮問機関の勧告により、世界遺産の周辺での、新しい建築行為の差し止めや計画変更が行われた事例がいくつか報告されたのです。
たとえばドイツの「ケルン大聖堂」は、ライン川を挟んだ対岸に高層建物の建設が計画されましたが、世界遺産会議は、この開発行為が大聖堂の視覚的完全性を乱すものであるとして、これを危機遺産に登録しましたが、ケルン市による開発計画の縮小と高さ規制が行われ、危機遺産リストから除外されました。危機遺産に登録されるということは、適切な改善がなされなかった場合、遺産登録リストから削除されるということを意味します。
昨年11月、世界遺産に登録されている原爆ドームの周辺環境の悪化が話題になっている広島で、「世界遺産とバッファゾーンに関する国際会議」が開催されましたが、同会議に参加したイコモス国際委員会の専門家委員は、原爆ドームの周辺のバッファゾーン内に、5つの高層建築が建設されたこと、とりわけ最近原爆ドームから至近距離に新しいマンションが建設されたことに対し大いなる遺憾と失望の念を表し、将来も同様の建築が続く可能性を憂慮し、日本の内閣総理大臣、広島県知事、広島市長に対してバッファゾーンが適切に保護されるよう、呼びかけをしました。地方公共団体は、バッファゾーンの存在と必要性とその保護について意識喚起することが求められているのです。
日本の重要文化財についても、その周辺環境の保全について、文化財保護法で規制するのが望ましいのですが、建物の敷地だけでなく、周辺の広い地域にまで規制するには、その敷地、地域の所有権の問題など、法の運用がきわめて複雑で困難なため、実施されていないとのことです。
青淵文庫と晩香廬は世界遺産ではありませんが、北区民のみならず、東京都民、日本の人々にとって、かけがえのない文化遺産であることには変わりありません。
そのような重要文化財の正面の至近距離に、晩香廬22坪に対して新築施設は55坪という文化財の2.5倍の大規模な建物を新設することにより、文化財周辺の景観が損なわれることにはならないでしょうか?
また、このように、重大な事案については、北区の文化財保護審議会で、きちんと審議されたのでしょうか?お答えください。
(4) 青淵文庫の修理工事検討委員会委員長であった東京大学教授の鈴木博之先生、世界遺産の選定などを行うユネスコ系のイコモス(ICOMOS)委員会の日本国内委員会委員長で元東京芸術大学教授前野まさる先生から『一般に、管理事務所は、文化財建物の一室を充てるか、あるいは、重要文化財の背後に、小さく目立たないように設置するものがほとんどで、文化財建造物の真ん前に建てる事例は見たことがありません。特に晩香廬のように茶室風の小規模の建物の真ん前に、10mギリギリの至近距離にその2倍半の広さの管理事務所を設置することは、常識では考えられません。
また、小さな晩香廬に配慮して、晩香廬の最高の高さ(棟高)5mに対して新設建物の最高の高さは3.5mであり、一見、高さを 抑えているように見えますが、実は晩香廬は寄棟瓦葺(よせむねかわらぶき)で、屋根は傾斜しており、この中央部の高くなっている頂点の高さが5mなのであって、建物周囲の軒高は3m強しかありません。これに対して、新設建物の屋根は平らな陸屋根で、中央も周辺もさして変わらず、建物周囲は軒高は3.4mあります。しかも、晩香廬は軽やかな木造の土壁腰とコーナーがタイル貼、木製建具の外観ですが、新設建物は壁面全体がタイル貼で、外部建具がアルミサッシの外観です。両者を同時に視界に入れた場合、広さ、高さ、外装とも、圧倒的なボリュームで晩香廬の外観を圧迫することは想像に難くありません。
広い敷地の中で、わざわざ、庭園入口から重要文化財の正面へのアプローチの位置を選んでで文化財建造物の管理事務所を設置することを許可されたのか、理解に苦しみます。
今までの管理事務所棟は、半世紀近く前に建てられた既存の建物ということで、特に取り壊すこともせず、最近は、渋沢史料館の改修工事、青淵文庫、晩香廬の改修工事を行う施工会社の現場事務所として使用されていたようですが、これは、今回の新築施設の半分以下の27坪と小規模な木造建物であり、樹木や灌木(かんぼく)に囲まれて、周辺の景観にほとんど影響を与えておりませんでした。この度、これを撤去して、渋沢財団が占有する建物を新築するということですが、せっかく、これを撤去するならば、渋沢旧宅の貴重な遺構である青淵文庫と晩香廬の重要文化財の周辺を、これらの建物が建設された大正時代、あるいは渋沢栄一翁の旧宅として公開された昭和初期の渋沢庭園を偲ばせるような姿に保全整備するのが最も適切だと考えるのであります。
ぎりぎり違法ではないという理由で許可されたとのことですが、渋沢庭園として今後も保全整備してゆかれるのであれば、もう少し文化的歴史的見地に立って、渋沢史料館分室だか重文建物の管理事務所だか知りませんが、この広い敷地のうち、わざわざ最も好ましくない位置に設置するのではなく、重文建物の背後など、重文建物および周囲の景観に配慮した位置に設置するのが適切だと指導すべきではないでしょうか』とのご意見を寄せて下さいましたのでご紹介させていだきました。
この、ご意見に対してのご見解をお伺いいたします。
(5) 幸い、まだ、この建物は着工はしていないようであります。今一度、この新築事案の許可について、一般建築と同様の観点のみおいて違法であるか否かだけの判断で許可をするのではなく、重要文化財としての文化的歴史的観点から再検討することを提案します。青淵文庫と晩香廬が、北区で初めての重要文化財建造物であるのに、このような新築がなされてしまえば、北区の文化的見識が疑われるのではないでしょうか?
(6) この公園は、渋沢旧宅跡の面影を残す渋沢庭園として、稲荷社やかつての茶室の礎石なども残っております。渋沢邸の跡地であることを意識し、今後も歴史的環境に配慮して、公園整備されていくことになると思いますが、今後教育委員会としてどのようにしていこうと考えているのか、お伺いします。