バックナンバー 2015年 6月

 

現在、すみだ北斎美術館の建築現場の仮囲いには、区内の保育園の園児が描いた北斎に係わるアート作品が紹介されています。担当者から話を伺うと、園児たちが目を輝かせて共同で作品を作り上げた様子が目に浮かんできます。また、区内の小中学校の先生から、子どもたちが北斎を墨田が生んだ世界の偉人として誇りに思い始めている、といった報告も聞かれるようになりました。

北斎美術館の完成前ですが、子どもたちに対する教育的な効果が出始めていることを感じるようになりました

行政・教育委員会は、プライバシーに配慮したうえで、紹介できるエピソードをまとめておくべきであろうと思います。

ここ2~3年、子どもたちに対し北斎について学ぶ機会を数多く持ってきた成果が少しずつ表れてきています。学芸員の方も含め、区の取り組みに感謝しています。

  FullSizeRender北斎

 

長年にわたり美術の振興と地域の活性化に尽くされてきたカリスマ館長・蓑豊氏が、最も成果を上げ、世界的な評価を得ている「金沢21世紀美術館」の館長就任にあたり、コンセプトに掲げたのは「子どもたちとともに成長する美術館」でありました。つまり、子どもたちの感性を磨き、創造力を育むことを最大のミッションとしたのです。具体的な取組は略しますが、こうした教育的な効果が、来館者増につながり、結果として地域経済の底上げにも寄与したことは周知の事実となりました。

教育効果をはじめ、文化的な貢献度を数値化することは難しいといえますが、かといってこうした効果を否定もできないと思います。

 

以上、申し上げたことを踏まえれば、「経済効果VS文化振興」の二項対立をそろそろ越えねばならないと考えています。

「地域経済への効果が見えない限り賛成できない」「文化芸術の振興は行政にとって重要な仕事のひとつ。赤字もやむを得ない」といった議論は卒業しましょうということです。行政としての「自己満足」「お飾り」と揶揄されてもやむを得ない施設が全国に散見されることは否定しませんが、これからの美術館は、直接、間接の経済効果をもたらす経済活性化の「核」にしなければなりません。

こうした主張を述べるにあたり、最近私は、ニューヨークの再生事例を紹介しながら説明しています。

 

以下、わかりやすく説明するために、慶応義塾大学総合政策学部の上山信一教授の論文から趣旨を引用させていただきます。

  


 

アメリカは、日本よりはるか以前に経済発展し、拡大再生産型の資本主義を形成。ニューヨークは巨大企業の本社が摩天楼と呼ばれる高層ビル群を林立させるなど、世界経済の中心地であった。いわば大企業が大木のように林立して経済を支えていた「大木経済」である。

ところが、その後日本などの新興国の進出により、1970年代にはそれらのビルは次々に売り出され、大企業の本社の多くは地方都市に移っていき、ニューヨークは荒廃した。

だが、次第に大木である摩天楼の代わりに雑木林の群生を生み出した。その活力の源が芸術・文化、メディアなどの産業であったというのである。

博物館、美術館、劇場、コンサートホール、そして大学、図書館などそれ以前からあったものを含め、2千を超える文化施設が雑木林を構成する施設だったのである。これら雑木林の周辺には新たな生態系が広がった。つまり、ミュージアム周辺の宿泊、飲食、みやげ物などの門前町的な産業に加え、出版、広告、放送、ファッション、デザイン、ソフト産業などベンチャー系も含め、雑木林を構成した企業は、文化・芸術、その他のサービス業だったのである。

さらには、こうした雑木林の周辺には専門技術・能力を持った人材が移住してきた。

このような雑木林の隆盛は、大木(大企業)の老化も防いだ。1990年代には大企業の流出も止まり、財政も好転し、ニューヨークは再生した。

  


 

「大木経済」から「雑木林経済」への転換に成功したニューヨークの事例を紹介すると、かなりの方が理解を示して下さります。当然、ニューヨークと墨田区を同じ尺度で比較することはできませんが、考え方はかなり参考になると思います。

日本全体が規格大量生産型の大木経済から文化・芸術、観光、教育やそれに連なる雑木林経済へと転換を図りつつある中で、ミュージアムがその核になりうるということを理解していただけると思います。

 

現実に、「すみだクリエイターズクラブ」ができ、有能な人材がすみだを舞台に様々なイベントを企画し、まちを変えようと活動されていますし、北斎美術館の近くには、オンリーワンの結婚式を企画する、全国的に注目されている企業がつい最近本社を移されました。また、ホテルの進出もいくつか予定されています。

これらは、スカイツリーのほか、郵政博物館、たばこと塩の博物館、江戸東京博物館、そしてすみだ北斎美術館、さらには2017年度に開館予定の刀剣博物館、3Mの一環である小さな博物館、また相撲文化など、すべてが相乗効果となって墨田区の価値を高めていることが背景にあります。これからは、都心や山の手ではなく、城東地域、特にすみだだと、注目されている証左です。

 

これからの公共施設は、文化施設だけではなく、教育、福祉、コミュニティ施設も含め例外なくコストパフォーマンスを問われます。区政全般のマネージメントの中で、それぞれの施設のあり方や価値を常に考えていく時代です。北斎美術館に関しては、積極的に推進してきた立場として、区民の理解を進めることとコスト意識を持ち続けることについて、これまで以上に自らに厳しく課していく決意です。

そして、東京オリンピック・パラリンピックの開催も追い風にして、墨田区の可能性をさらに高めるよう、建設的な提言をしてまいります。

 

  

かのう進のTwitter
公明党のTwitter
カレンダー
2015年6月
« 3月   7月 »
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  
サイト管理者
墨田区 加納進
kanou-s-komei@polka.ocn.ne.jp