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公明党 横浜市会議員(青葉区) 行田朝仁 (ぎょうた ともひと)

「罪の声」と「情報を背負う世代」について 3947

未分類 / 2017年8月27日

DSC_5092昨日は朝から県本部での断続的な会議等々。今年上半期の直木賞受賞作は佐藤正午氏の「月の満ち欠け」(岩波書店)。読んでみたいな、と思いつつ、今週、手にしたのは山崎豊子さんの直木賞受賞作「花のれん」。読み進んでいますと、たまたま山崎さんを評する作家の塩田武士さんのインタビューを目にしました。私はまだ読んでいませんが、昭和の未解決事件、グリコ森永事件をフィクションで推理し真実に迫ろうとする小説『罪の声』(講談社 第7回山田風太郎賞受賞作)で注目されている同氏。これからの時代を創る若者の「情報への向き合い方」について答えていました。ご紹介します。

「10年の新聞記者生活を経て、小説家としてデビューした。意欲作『罪の声』は、3人の子どもの声が使われたことが、人々に、なぜ簡単に忘れられてしまったのかに焦点が当てられている。これまでの固定された“事件の語り口とまなざし”を更新しようというわけだ。

 塩田「当時はバブルの入り口。新聞を開いても、サラ金の話が多い。そんな時代だからか、犯人の要求金額やトリッキーな脅迫文に、世間の目は向いていたような気がします」

  面白おかしいことばかり報じられてきたという事実――今の時代の人たちを劇的に変化させ、翻弄しているのは「情報」だ。この確信が塩田さんにある。

 塩田「山崎豊子や松本清張、司馬遼太郎は『戦争』を背負った世代だった。僕らは『情報』を背負う世代」と語ったことがある。

   「時代を代表する作家って“芯”があると思うんです。山崎豊子は軍需工場で働いていて、合間に本を読んでいたら平手打ちをされた。その時、こんな世の中、絶対に嫌だと思ったそうです。松本清張も兵隊に入れられた。彼らは戦争に対する強烈な“否”をつきつける反骨心があったと思うんです。それが物語を作る上においても、通底としてあるように感じます。じゃあ僕らの世代は何かというと、戦争を書いてもかなわない。経験していないからです。その時代、時代によって背負うものが違う。僕らにとっては、それが情報だと思うんです」
  
 時代をさかのぼり、情報の流通量に目を向けてみると、インターネットの普及により、爆発的な変化をしていることが分かる。1999年から2000年の1年間の流通情報量は、有史から1999年までの分に匹敵する。また、総務省の調べによると、2001年から2009年の間に、流通情報量は200%に膨れ上がった。“情報ビックバン”が起きている、それが今の時代と言えそうだ。

   「まとめサイトがあれば、長いノンフィクション作品は特に必要ないと思います」――あるノンフィクション作家は、若者からそう言われ、戸惑ったことがあるという。

 「確かに若い人の中で、どんどん、まとまった長文を読むのが難しくなっていると思います」と塩田さん。

 情報を摂取できる限界自体は変わらない以上、人間が効率的に情報を得られるものに飛びつくのも無理はないのかもしれない。

 しかし、気を付けなければいけない。「情報は武器であり、毒にも薬にもなる」からだ。情報の真偽、取り扱いについては、先人たちも盛んに議論してきたテーマだ。すでに紀元前5世紀、ギリシャの歴史家がペロポネソス戦争を扱った『戦史』で「たとえ自分が見た事件でも事実の公平な記述たり得ないし、目撃者から聞いた話をまとめても、見る角度で違う」(久保正彰訳、岩波文庫)と記している。

 現在の世界を見渡しても、悪意ある情報や、うその情報を流し続けたり、ビッグデータを元に情報を操作しようとしたりする人や団体が存在する。フェイク(うそ)ニュースが一国の代表の選出に影響を与えた。ツイッター社は毎日、テロに関するだけで、何十万件というツイートを削除している。

 「皆、何を信じていいのか分からなくなってきている。まずはメディアをはじめ、情報の発信側が大きく意識を変えていかなければいけない」というのが、塩田さんの持論だ。

 かつて見に行った山崎豊子の個展が忘れられないという。「会場に、取材で録音したカセットテープの山があって、びっくりしました。それら膨大な情報の中から選んで、貼り絵のように、一つ一つ貼って全体像を浮かび上がらせていたんです」

 その姿勢は作家・塩田武士に大きく影響を与えている。小説『罪の声』は、400ページを超え、情報密度は濃い骨太な作品ながら一気に読める、と好評だ。2017年の「本屋大賞」にもノミネートされている。「調査報道の醍醐味が味わえるノンフィクションのような推理小説」「ここまで徹底したリアリズムに満ちた小説を読んだことがない」など、称賛の声も多い。
  
 「音声を使われた子どもたちも被害者です。警察の目をまんまとくぐり抜けた犯人をアンチヒーローのようにまつりあげてしまってはいけない。毒入り菓子によって罪のない人たちを巻き込んだ最悪の事件です。ここを外しては本質を見失います。総括の必要がある。小説ならそれができると思ったんです」

 偏った情報のせいで、子どもたちがその後どんな人生を歩んだのかを考えることもなく、さらに悪事すら面白おかしい記憶にすり替えられている――塩田さんが、この作品で、メスを入れたのは、この構造だろう。

 「情報をどう捉え、切り取っていけるかで勝負していきたい」と語る塩田さん。

 「大学3年の時から、このテーマでいつか小説を書こうと思っていました。でも、『あなたの筆力と経験値では、まだ無理です』と編集者に、はっきり言われまして(笑い)。着想から15年。資料を一つ一つ読み込み、現場に足を運ぶ中でストーリーを練りました。事件を知らない人も興味を持ってもらえるよう、エンターテインメント性を担保しながら、社会を問う作品に仕上げたつもりです。ぜひ、若い世代に読んでもらいたいと思います」

高いアンテナ、鋭い視点。すごい作家だなと感じるとともに、一度同氏の小説を読んでみたいと思いました。